2020年12月4日「鬼滅の刃」最終23巻が発売された。心揺さぶる物語にピリオドが打たれ、その余韻に浸っている方も多いだろう。─そして人々は「次」の物語を欲している。そんなあなたに少年ジャンプ+(Web連載)より次に来るヒットマンガ【SPY×FAMILY】を紹介したい!

 

 

巻数 既刊5巻(6巻12月28日発売予定
発行部数 600部(電子版含む)
受賞歴 全国書店員が選んだおすすめコミック2020 1位
このマンガがすごい!2020オトコ編 1位
みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞2020 大賞

 

1行あらすじ

スパイの父殺し屋の母超能力者の娘が織りなすホームコメディ

 

  

ここがポイント!

  1. 3人とも自分の“正体”を隠して生活している。
  2. 東西冷戦時代のドイツによく似た世界が舞台。
  3. 血縁のない“偽装家族”を作るが、それぞれの“目的”はバラバラ。
続柄 ネーム(通称) 職業 本業 アーニャの評価
ロイド・フォージャー
「黄昏(たそがれ)」
精神科医 スパイ 「ちち、うそつき」
ヨル・フォージャー
「いばら姫」
役所事務員 殺し屋 「はは、やばん」
アーニャ・フォージャ 名門校生徒
(問題児)
心を読む能力 「わくわく…っ!」

 

人はみな誰にも見せぬ自分を持っている。
友人にも恋人にも、家族にさえも
張りつけた笑顔や虚勢で、本音を隠し本性を隠し
そうやって世界は──
かりそめの平穏を取り繕っている。

SPY×FAMILY 1巻冒頭より

少年ジャンプ+(プラス)の最高記録─!

少年ジャンプ+は紙媒体の週刊少年ジャンプに連なるWeb配信のマンガアプリである。オリジナル連載が多く、アプリをインストールしたら1作品に限り全話無料(2020年12月現在)、1巻、2巻までは無料で読み放題などの作品が数多くある大盤振る舞いのマンガアプリだ。2020年にコロナ禍で暇を持て余した多くの読者をサイトに集め、出版社系の漫画アプリではAU数(アクティブユーザー)が日本一となる。
【公式サイト】https://shonenjumpplus.com

 

 

その中でも看板作品として紹介されるのがこの【SPY×FAMILY】である。第一話の応援コメント数が2000、5話公開までの総閲覧数が300万を超え、少年ジャンプ+の最高記録を作る。twitterでもトレンド入りし、国外向けのマンガアプリで翻訳連載され世界中で人気を博し、発行部数は既刊5巻では異例の600万部の大ヒット作となる。ちなみに応援コメントは誰でも見れて書き込める。12月8日現在で16975番目のコメントは「ははのおいしいシチュー食べたい」。みんなも1・2話はアプリインストール無しでも無料で読めるので読後に応援メールを書いてみよう。

【ジャンプ+公式】SPY×FAMIRY 第 1話:
https://shonenjumpplus.com/episode/10834108156648240735

 

スパイ×殺し屋×超能力=シリアス─?

作品の舞台となる世界観は東西冷戦のドイツがモデルとなっている。となればスパイと秘密警察が暗躍する超シリアスなドラマが繰り広げられること間違いなし。加えて、それぞれが正体を隠した「偽装家族」となれば、もう悲しい結末しか見えない──、と思ったらこりゃすごい。洋画のスパイコメディー物のお皿に日本の少年漫画テイストの料理が見事にマッチしている。言うなれば、「ホームコメディ〜少年漫画風味〜」。全然うまくないがとにかくシリアスとコメディのバランスが良い。落ちたら即破滅のシリアスな設定の上をホームコメディがドタバタと走り回っている

 

 

父と母と娘、スパイと殺し屋と超能力者、彼らが織りなす物語は一歩間違えれば深刻な暗い話になりがちだが、心を読むアーニャの存在が常に「明るい方」へと物語を引っ張っていく。心を読むゆえの気遣いだけではない。アーニャ自身が能力に振り回されない「メンタルの強さ」(大雑把+楽天的)を持つので「暗く」なりそうな日常のやりとりを全てコメディにしてしまっているのだ。父役のロイドと母役のヨルの物騒な思考に心のツッコミをいれて笑いにしているのは見事な手法だ。アーニャの存在はまさに「子はかすがい」アーニャの心情的には「わくわく…っ」先行の行き当たりばったりらしいが、上手くいってるし結果オーライだろう。うん。

 

「疑似家族」と「血縁家族」

 

個人的に1、2巻は「一気読み」ができなかった。3人がそれぞれ心の中で語るセリフ(モノローグ)が多いため、「小説」を読んでいるような読み応えがあるのだ。それぞれの場面で「良い父親」を演じようとするロイドと「いい母親」らしく振る舞いたいヨルの心情に自分自身ががっつり入り込むので、距離をとって読めないのだ。そこにアーニャが「やぁー」とか「わくわく…っ」といって入り込んでくるので明るく楽しく読めるのだが、「家族」の話はどうしても暗くなりがちだ。

 

 

それぞれの年代で大ヒットした家族を描いた映画に「そして父になる(2013年)」「万引き家族(2018年)」「パラサイト 半地下の家族(2019年)」がある。共通しているのは家族のあり方を私たちに問いかけてくることだ。ぶっちゃけキツい。「家族」。確かに考えねばならないことだが、正直お腹いっぱいだ。考えて、悩みすぎて、20代前半の時には「絶縁状」を書いたこともある。手渡したと同時にそれは拒絶されたが当時は本気だった。それぐらい私にとって家族は重いものだった。30代後半になった今だからこそ「距離感」を身につけ、うまく付き合っているが「血縁」の家族が心の底から仲良しなんて有り得ない。同級生や会社の先輩にも家族の話を聞くがどこもそんな感じだ。(さすがに絶縁状は私だけらしいが…)

 

 

「血縁の家族」と「疑似家族」、どちらが本物かと問われればもちろん「血縁」だが、どちらが良いかと問われればこれはもう決まっている。この答えは20代で出てしまった。「家族」になろうとしている方だ。理想をもとめ、それに近づこうと努力している方が良いに決まっている。血が繋がっていなくても、本当のことを知らなくても,「疑似」でも「偽装」でも目の前の他人にとって自分が「こうで在りたい」「こう呼んでほしい」と願い、接することがキズナなのだ。DNA鑑定?犬にでも食わせおけ。血は水より濃し?濃ゆ過ぎてみんな自家中毒起こしてるわ。誰がなんと言おうと、何もしない本物なんかより、本物になろうとしている偽物の方が価値があると、20代の頃の私が主張している。家族について苦悩していた頃の私に足りなかったのは、自分に課せられた「役割」への自覚と、それを果たすための努力だった。

 

世の中のお父さんは皆、このぐらいのスケールで動くべし。「世界」=「我が家」で「我が家」が「世界」の根幹なのだ。

 

前作「TISTA」と「月下美刃」

 

 

タイトル TISTA』(ティスタ)
掲載雑誌 ジャンプSQ
ジャンル クライムサスペンス
連載期間 2007年〜2008年(全2巻)
内容 凄惨な過去を持つ暗殺者ティスタ、彼女の苦悩と葛藤…そして救い。

こちらは麻薬中毒者に両親を殺された少女が「スナイパー」になり街の「悪者」を殺していくというもの。凄惨な過去に「自縛」された少女は否応無しに「暗い方」へ連れて行かれてしまう。さらに同じ「家族」でもこちらは実父母に「虐待」を受けひどい傷を負わされた少女が出てくるなど終始暗く重い話だった。まぁ、そこが魅力だったわけだが、一般受けはしなかったと思う。

 

 

タイトル 月華美刃』(ゲッカビジン)
掲載雑誌 ジャンプSQ
ジャンル 和風ファンタジー
連載期間 2010年〜2012年(全5巻)
内容 クーデターを起こされた月のお姫様カグヤ、お転婆な彼女の奮闘記。

ノワール映画のような前作「TISTA」とは打って変わってこちらは和風ファンタジー。「竹取物語」をモチーフにした王道少年マンガだ。偉大な「」の背中に感化され、不甲斐ない自分を奮い立たせ戦おうとする「」の姿は少年マンガの熱さを体現した作品だ。と同時に、「ダジャレ的ネーミングセンス」など「SPY×FAMILY」に通じる作家性もこの頃から発揮されている。

 

かぞくになろうよ

 

そして2019年、約6年ぶりの連載「SPY×FAMILY」が始まる。「TISTA」「月華美刃」を経ての3作目はアーニャのデフォルメされた表情に代表される「漫画的表現」に磨きのかかった明るいファミリーコメディとなった。正直「TISTA」を連載時から読んでいた私にとっては驚きの作品だった。言い方に語弊があるかもしれないが、漫画家としてすごい「バランス」がとれたな、と感じた。作家性を全面に押し出したひたすらに「暗い」物語ではなく、少年マンガの基本に立ち返った「王道」的物語にも偏らない3作目、スパイファミリー。シリアスとコメディのタップダンス、そこに少年マンガの熱さを加えた絶妙な「バランス」。なんというか、遠藤先生、漫画が上手くなったなーというのが素直な感想だった。コロナ禍の時代、Webでの配信、ジャンプ+の戦略、人々のニーズ、そして何より「遠藤達哉」先生の作家性と漫画力を根幹として600万部のヒット作が生まれたのだろう。

 

 

1.2巻までは感情移入し過ぎて中々読み進められなかったが、3巻以降は楽しくサクサク読み進められた。コメディ色が強くなったのもあるが、「安心」したからだ。この3人なら大丈夫、「家族」をやっていける、そう確信したのが3巻からだ。ロイドが本音を口にして、罪悪感のそれをゴミ箱に捨てたあと、やっぱりこいつなんだよな、アーニャ。この一言だ。

 

 

3人それぞれの思惑は違えど「家族」を守ろうとする気持ちは一緒だ。ロイドは「」として、ヨルは「」として、アーニャは…あの子は特に何も考えてないな。でも一番活躍しているのもアーニャなのだ。自称「世界を救ったスーパー超能力者」アーニャ・フォージャー。物語を明るい方へと引っ張っていく遠藤作品の中でも稀代の「バランスメーカー。アプリからでも単行本からでもいいので彼女の活躍を、ロイドとヨルのドタバタっぷりをぜひ、堪能してほしい。アーニャたち以外の登場人物も良い味出している。個人的に「フィオナ」のキャラクターがツボなのだが。いいよね、クールビューティ。アーニャの能力のお陰で「ギャグ要員」になってるけど─。冷たく見えるキャラが本心を滲ませる場面が好き。それがちょうど5巻のラストなので、12月28日発売予定の6巻が今から楽しみ。

 

 

今はちんちくりんのアーニャもいつかは「大人」になる。ボン・キュ・ボンかどうかは置いといて、この日々を振り返ってどう思うのだろう。“偽装家族”として過ごしたこの日々を。父役の彼を、母役の彼女を、大人になったアーニャはどう思い返すのだろうか。私はどうだったろうか?小さい頃の思い出はキラキラしていたか。それとも辛いものだったろうか。家族としての自分の「役割」を意識したことはあっただろうか…。あなたは、どうだ?

 

 

家族」はつくれる。血縁に関係なく、誰かにとっての「こうで在りたい」と「こう呼ばれたい」という願いがあるのなら。そのために行動すればキズナは生まれる。独りよがりの一方通行は駄目だが、家族のなりたいという思いと行動は相手にもきっと伝わる。すぐには無理だが、その積み重ねがこそが「ニセモノ」を「ホンモノ」以上にするのだ。「SPY×FAMILY」はそのことを私たちに教えてくれる素晴らしい漫画だ。……などと格好良くまとめてみたが、柄じゃないな。

 

アーニャかわいいよ!ロイドがんばれ!ヨルさんお手柔らかに!
うん、これだな。 〜BGM 福山雅治「家族になろうよ」

 

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