シリアス(真面目・本格的・深刻)な漫画たちが急にギャグ漫画に変わる時。そこにはどんな事情があるのだろうか?あの有名漫画「デスノート・進撃の巨人・鬼滅の刃」を取り上げて考察してみたい。

 

 

シリアスな漫画といえば……

アラフォーの私にとってシリアスな漫画といえばやはり『デスノート』だ。
2003年〜2006年に連載全12巻で完結し映画、アニメ、ミュージカル化などした大ヒット漫画。2015年9月には全世界累計発行部数3000万部を記録している。映画だと2人の主人公、夜神月「藤原竜也」とLこと竜崎「松山ケンイチ」が印象的だった。

あらすじ:
書くだけで人殺せる「デスノート」をめぐる天才と天才の頭脳戦。死神という超常的な存在すら「駒」の如く扱う主人公の鳥肌ものの人心掌握術・高度な心理戦。それに振り回される日本警察やFBI、愛憎渦巻く「人間関係」から全く予想できない展開へ──!

こんな感じ:
『デスノート』はシリアス漫画の代表格と言ってもいいだろう。しかし、そんなデスノートもシリアス一辺倒で駆け抜けたわけではない。ちょこちょこギャグ要素が差し込まれていた。

 

 

原作者の大場つぐみ先生が1960年代生まれのアラカン(アラウンド還暦。当時流行したモノは自身の他作品の中にもさかんに取り上げている。終始シリアスな展開もギャグを狭まずにいられないのは「漫画家」故か、「人」のさがか─。

 

 

シリアスだからこそギャグになる!

「シリアスな笑い」という言葉がある。全く笑える要素がないのになぜか笑いがこみ上げてくる。意図しない笑い、真面目にやればやるほど笑えてくる、そんな「笑い」。

私が20代の頃、怒鳴り散らす上司の顔に思わず吹いてしまったことがある。真面目で深刻な話だったのに何故か「笑いが」生まれた。あの現象は一体なんだったんだろう?気づいてしまえばもう無理。我慢すればするほど堪えきれない。

もしかして人生においてシリアスとは「笑ってはいけない」シリーズなのではないか。私たち人間は「シリアス」を「笑い」に変えることで生物として生存戦略を図ってきたのだ─。シリアスな場面を「笑い」にしようとするのは私たちの「本能」なのかもしれない。

デスノートの名セリフ「新世界の神になる」「計画通り」「!……」「駄目だ、こいつ…早くなんとかしないと」は沢山のおもしろ画像に改変されている。いわゆる「パロディ化」。シリアスだからこそギャグになる。みんなそういうのが好きなのだ。

 

 

「進撃の巨人」

掲載誌 別冊少年マガジン
作者・前作品 諫山 創(いさやま はじめ)・初単行本デビュー
期間・完結 2009年10月〜既刊32巻(2020年11月現在
作品の舞台 壁に囲まれた世界は作者の出身地「大分県大山町」がモデル
単行本発行部数 2019年12月時点で全世界で100,000,000部を超える。講談社でマンガ一億部突破は「金田一少年の事件簿」に続いて2作目

1行あらすじ:
巨人により人類が壁の中に追いやられた世界。巨人への憎しみを胸に世界の秘密に迫る!

ここがポイント:
主人公エレンは反骨精神あふれた少年「大きくてわけのわからないもの」に挑む勇気をもつ。ミカサはエレンに救われた少女「身体感覚の完全支配」に目覚め、抜群のフィジカルをもつ。アルミンは体力よりも知性に優れる。「土壇場の機転」に定評があり、周りに信頼されている。

こんな感じ:
アニメ・映画化と社会現象になった「進撃の巨人」。超シリアスな話だけど、その独特の「笑い」が話題になることもしばしば。その始まりはこの4巻だと言っても過言ではない、この表紙よく見てほしい。

 

 

夕焼けの中、8人の若者がそれぞれの思いを胸に、みな違う方向を見ている。女性陣が見つめる視線の先が気になるところだが、ちょっと待ってほしい。一心不乱に「イモ」を食っている奴がいる。通称イモ女・サシャ・ブラウス。進撃の巨人の「シリアスな笑い」はコイツから始まった。

 

 

訓練兵時代、フルメタルジャケットばりの上官からのキツい洗礼。そんな極度の緊張状態の中、1人、イモを食い続ける女がいる──。「お…い…貴様は何をやっている?」

 

 

サシャブラウスです!じゃない、そうじゃない…なぜ、この状況でイモを食っていられるのだ。そのポーズはイモを握りしめたままやっていいポーズではない。「心臓を捧げよ」が「イモを捧げよ!」になってるじゃないか!?

 

ここは完全に狙っているシーン。シリアスマンガの代表「デスノート」のセリフパロディ。「あなたが神か?」である。教官に罰をくらいメシ抜きでひたすら走らされたサシャ・ブラウス。空腹の極みに達した彼女にパンと飲み物を持ってきてくれた女の子。そんな彼女に「神ぃいいいいいい」としがみつくサシャ。─女の子もドン引きである。

「進撃の巨人」は3巻までは本格的なダークファンタジーとして息もつかせない疾走感を見せた。それは読者を一気に世界観に引き込むための作者の戦略だったらしい。そこから「シリアスな笑い」を解禁したこの4巻はマンガにとって大きな節目と言えるだろう。

まだ、進撃の巨人を読んだことがないという人。1巻読んだけど、話が重くて読むのがしんどいという方。この4巻まではぜひ読んでほしい。笑えるから。訓練兵時代からの人間関係にもグッとくる。

 

1話完結
絵がキレイ
シリアスな笑い
恋愛要素


「イモ女・サシャ ブラウス」これだけでも覚えて帰ってね!
長い話、絵柄が苦手という人はアニメから入るのもおすすめ。

 

「鬼滅の刃」

掲載誌 週刊少年ジャンプ
作者・前作品 吾峠 呼世晴(ごとうげ こよはる)初単行本デビュー
期間・完結 2016年2月〜2020年5月完結・既刊22巻〜(最終23巻12月4日発売)
作品の舞台 作者の出身地「福岡県」竈門(かまど)神社が聖地巡礼されている。
アニメ化の影響 2019年3月の14巻の時点で累計発行部数450万部
アニメ放送終了直後の同年9月16巻で1200万部を超える。
2020年11月には国会答弁にも影響を与え、社会現象となる。
2020年既刊22巻で発行部数は一億部を突破している。
2020年10月公開の劇場版は興行収入日本歴代2位275億円(12月4日現在)

1行あらすじ:
鬼になった妹を人間に戻すため、独特の呼吸法を使う剣術を学び、人を食う鬼達と戦う!

ここがポイント:
主人公の名前は竈門炭治郎(かまどたんじろう)由来は「炭焼き」の息子だから。長男体質。妹の名前は竈門禰豆子(かまど ねずこ)由来は鬼を祓う魔除けの意味。3巻から合流する我妻善逸(あがつま ぜんいつ)4巻で登場する嘴平伊之助(はしびら いのすけ)。このトリオになってから連載中の少年ジャンプで打ち切り寸前から人気が急上昇したらしい

こんな感じ:
ただいま大人気、大人も子供も夢中になってる「鬼滅の刃」。こちらも「進撃の巨人」同様、シリアスなダークファンタジーと言っていい作品。漫画の中で語られるモノローグから作者の人の心を深く見つめようとする繊細さが伺える。そんな日本刀の切っ先みたいな物語の中で、とにかく騒がしかったのがコイツ。自分に正直な男・我妻善逸(あがつま ぜんいつ)。こいつの女性へのアプローチがあまりにも酷い。彼の「ヘタレ泣き言」はシリアスな世界観を叩き割り、笑いへの呼び水となっている。

 

 

ジャンプ打ち切りの救世主、と一部で言われている善逸。シリアスな世界観は鬼滅の物語の核となるもの。だが、それだけだと読む方も描く方も疲れる。だからこその善逸の登場だったのだが……

 

 

優しさの塊と言われる主人公の炭治郎。困ってる人に常に手を差し伸べる慈悲深さ。そんな彼をもってしても善逸の言動をフォローできない─。人はあまりにも酷いものを見たとき、こんな顔をするのだろう。

 

 

というわけで、鬼滅の刃における「シリアスを叩き割る電光石火の笑い」。我妻善逸(あがつま ぜんいつ)の登場シーンを紹介してみた。読み直してみると、思った以上にひどかった。つまり大爆笑だったわけだ。冒頭と下の画像は「鬼滅の刃ファンブック」に収録されているスピンオフから。「キメツ学園」というおまけ漫画。その1ページ目ぶち抜きで語る善逸のセリフ。「モテたい!来年のバレンタインには せめて一個 チョコレートをもらいたい!!」

真剣に言えば良いというわけではない。魂がこもるほどにドン引きである。3巻の表題が「己を鼓舞せよ」なのだが、そんな勇気は、奮い立たせなくていい─。

 

 

1話完結
絵がキレイ
読めない漢字
電光石火の笑い

 

読むたびに作者は心の優しい繊細な人なのだと感じる。

優しいからこそ傷つく。シリアスだからこそ笑わせてくれ!

「まとめ」

 

 

 

シリアスからギャグへ川が上から下へ流れるように、自然の摂理が如くその流れに逆らうことはできない。それは人が生きていくために獲得した「本能」であり、漫画家たちが無意識に求める「救い」なのだ。

私たちは生きている限り、いつかどこかで「ひどい目」に遭ってしまう。それこそ、巨人に食われたり、鬼に襲われたりはないにしても、死にたくなるような「絶望」や出血多量の「瀕死」の状況には遭遇しそうな予感がしている。事故や事件、病気、災害、ある日突然壊される日常。そんな時、今にも死にそうな顔と辛気臭い雰囲気をぶち壊してくれる「バカ」が必要なのだ。本人はいたって真面目だが、そのばかばかしい言動で集まったみんなのシリアスな顔を苦笑いから「爆笑の渦」に変えてしまう、そんなワールドカップ級のゴールを決めるバカを私たちは求めている。

理想的な社会を一皮剥いたらそこは「残酷な世界」。けれど、「バカ」が巻き起こす「笑い」がある限り、人は前に進む希望を見失いはしないだろう。どこかで聞こえる笑い声が誰かのうつむいた顔を引き起こす。    

BGM「Beautiful World (ビューティフルワールド)」by宇多田ヒカル

 

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